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川崎市が次世代の臨海部を支える産業として水素に期待をかけている。9月にjfeスチールが高炉を休止する。その跡地に水素受け入れ拠点をつくり、周辺に存在するコンビナートや火力発電所での需要を見込む。ただ需要が大きく広まるかは現時点では未知数で、将来の技術革新や水素価格の低下を待つ必要もある。
市は2日にjfeスチール跡地の活用案を発表した。そのなかで扇島地区280ヘクタールについて事業費とおおまかなスケジュールを明らかにした。カーボンニュートラルエネルギーや次世代産業、商業・文化・生活など複数のゾーンに分けて再開発を進め、2050年までに市は2050億円を投じる。市と国、民間企業を合計すると2兆600億円の大型事業だ。
なかでも一番早く整備が進みそうなのが扇島地区の南東にあたるゾーンだ。現状は鉄鉱石や石炭などの原材料を受け入れるヤード。建造物が少なく再開発を進めやすい「先導エリア」と位置づけた。24年度から水素の受け入れ拠点として整備を進め、28年度にも実証事業を始める予定だ。
後ろ盾はある。新エネルギー・産業技術総合開発機構(nedo)とeneos、などはオーストラリアからの液化水素の受け入れ地として川崎臨海部を選び、商用化に向けた実証実験を始めると3月に発表した。先導エリアはこの計画と合致する。
供給体制については見込みがついているが、果たして需要はあるのか。
市によると臨海部にはすでに一定の水素需要はある。19年に調査したところ「年間需要は16億7000万ノルマル立方メートルと全国消費量の1割にあたる」(カーボンニュートラル推進担当)と推定。石油精製の過程で硫黄を取り除く際に使われるほか、樹脂の添加剤や発電所のタービン冷却が主な用途だという。コンビナートや発電所などの産業が集積している利点がある。
ただ新規の需要創出が欠かせない。カーボンニュートラルにつながる水素の大量需要先として期待されるのが横浜市を含め先導エリア周辺に立地する大規模な火力発電所だ。国内発電最大手のjeraやなどの発電所が5カ所ある。現在は天然ガスを燃料にしているが、水素を燃料の一部として使う「混焼」の需要を見込む。
21年に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」ではカーボンニュートラル実現へ向け、ガス火力発電で水素の30%混焼を目標として掲げている。
ただ水素需要が拡大するためには価格という大きな障壁を取り払う必要がある。現状、水素は1ノルマル立方メートルあたり100円程度。他のエネルギーと比べ価格競争力に劣る。豪州から船で運ぶための費用もかかる。
政府は水素基本戦略を6年ぶりに改定し、15年間で官民で15兆円を投じる計画を打ち出した。30年時点で価格を30円、50年で20円以下まで引き下げ、化石燃料と価格競争力を保てる程度にする目標を掲げる。水素による地域振興は川崎市の努力だけでは達成できない不確定分野が残る。